小さな選択が、世界を変える力になる。
群馬で生まれるカーボンニュートラルやサーキュラーエコノミー(循環経済)の取り組みは、その証です。
自然と共生し、地域を守る人々の物語を、ぜひご覧ください。

国内では年間260万台(*1)程度の使用済み自動車が排出されています。自動車のリサイクル率はおおよそ99%。約2~3割が部品としてリユース、約6割が素材としてリサイクルされ、再利用できないシュレッダーダスト(*2)は熱源としてリサイクルされ、最終的に1%が埋め立て処分となります。自動車リサイクル法施行後、自動車の再利用率は高まりましたが、それでもまだ使えるものが捨てられていく現状はあります。自動車解体業を営みながら、有効な使い道がなく処分されていたシートベルトやエアバッグをアップサイクルしたバッグを考案。ごみ減量に取り組む株式会社ギヤ代表の上村正則さんを紹介します。
*1 公益財団法人自動車リサイクル促進センター2024年度資料。
*2 使用済自動車から有用な部品や鉄などの金属資源などを回収した後に残る樹脂やゴムなどのクズ。ASR。
自動車リサイクル料金の使われ方

藤岡市にあるギヤの自動車解体工場では、使用済みの自動車を買い取り、フロンガスの回収、エアバッグやシートベルトの作動装置の分解、再利用できる部品や金属の回収作業など、解体作業をひと通り行っています。

[自動車部品などが所狭しと展示されたギヤの事務所。「自分のことは、“解体おやじ”と呼んでもらえればいいです」と気さくに話す上村さん]
陸上自衛隊相馬原駐屯地で車両整備士として8年勤務した後、自動車解体業者に20年近く在籍してから独立した上村さんは、この道のベテラン。一人で手際良く中古車を解体し、バラしていきます。
私たちが新車を購入する際に支払う自動車リサイクル料金は、廃車となって解体される時にフロン、エアバッグ、シュレッダーダストの処理費用として使われますが、そのお金がどのような処理工程に使われているか、一般の人はなかなか見る機会はありません。上村さんは解体工場を案内しながら、その工程を説明してくれました。

[エアバッグが収まったハンドルを解体し、裏から見た様子。「ちょうどクラクションの裏に火薬が入っています。ガスを発生させるこのインフレーターの穴に電気が入ると、エアバッグが飛び出す仕組みです」]
個人で自動車解体業を営む上村さんの解体は手作業の工程が多いのが特徴です。例えば、エアバッグも、ハンドルの中から一つひとつ、手で取り出します。
「何台も処理する大きな会社だったら仕事が間に合わないから、こんなことはやっていられません。電気を流してバンバンと効率よくエアバッグを取り出していきます。うちみたいな小さな会社は一個一個手で取っているので、製造をした時と同じ状態です」、上村さんはそう言って、コンパクトに折り畳まれた白いエアバッグを見せてくれました。
エアバッグも効率的に火薬を爆発させる処理方法だと、発生したガスの臭いがつくのでごみにせざるを得ませんが、手で取り出したエアバッグは製造時のまま。捨てるのは忍びない未使用の美品です。

[ワイヤーがギュッと締まり、シートベルトを固定するプリテンショナーと呼ばれる装置。写真のものは火薬の入っていない電気式だが、専門知識を持った人が適正に解体する必要がある]
運転手の命を守るため、エアバッグはシートベルトと連動しています。エアバッグが飛び出す非常時には、シートベルトを巻き取る装置も作動します。
シートベルトは、高強度のポリエステル製でおよそ3tの荷重に耐えられるそうです。車に乗っている間に交換が必要になるケースは稀で、半永久的に使えるほど丈夫ですが、廃車後はシュレッダーダストとしてほとんどが処分されています。一方、エアバッグもナイロンにシリコンをコーティングした複合素材のため、素材別にリサイクルすることは難しく、シートベルトと同じく大半が処分されます。
“もったいない”が生み出したバッグ
上村さんは、こうして有効な使い道がなかったエアバッグとシートベルトの活用法を試行錯誤し、デザイン性の高いバッグをつくりました。

シートベルトトートバッグのバリエーション。全て一点モノであるのも魅力

[グレー、白、黒、茶など色違いのシートベルトを縫い合わせてボーダー柄にしたトートバッグ。内袋はエアバッグでつくっている]

[こちらは白いエアバッグを染め、丸い形と耐久性を活かしてつくった「タフバッグ」]
バッグはメディアでも多く取り上げられ、トートバッグは2023年日本ギフト大賞の群馬賞を、タフバッグは同年度のグッドデザインぐんま商品選定事業で、ソーシャルデザイン賞を受賞しました。

[「社名のギヤは歯車という意味です。業界の歯車的な立場になれればいいなと思ってつけました」]
「私は皆さんの愛車を廃車にする“おくりびと”的な立場。シートベルトもエアバッグも私が見過ごせば、そのまま産業廃棄物になります。まだ使えるのにもったいないという気持ちと探究心、あとは仕事への感謝の気持ちがこのバッグを生み出したと思っています」
アップサイクルは楽しい!
2005年、自動車リサイクル法が施行された背景には日本各地のシュレッダーダストを処理する最終処分場がひっ迫し、使用済み自動車の不法投棄や不適正処理が社会問題化していたことがあります。
上村さんも、ごみ問題に関心を持ったきっかけは、自動車解体業に転職してまもなく、新潟の最終処分場「エコパークいずもざき」を見学したことでした。

「中山間地のくぼみに広大な埋め立て処分場があって、その圧倒的な量にショックを受けたんです。その時から、いつかごみ削減に取り組みたいと思っていました」
上村さんが最終処分場を見学した頃はまだ自動車リサイクル法施行前で、年間発生量100万t前後といわれるシュレッダーダストは、ほぼ最終処分場で埋め立てされていました。同法施行後、不法投棄や不適正処理、埋め立てごみは大幅に減り、シュレッダーダストの再資源化率は97.2%に(*3)。現状、7割ほどが熱源に利用され、さらに2割ほどが再生資源として回収され、埋め立ては1%ほどです。
*3 公益社団法人自動車リサイクル促進センター2024年度資料
こうした数字を見ると、問題は解決しているようにも見えます。しかし、熱源利用によるサーマルリサイクルはCO2を排出しますし、焼却による燃えかすは年間数万tに及ぶともいわれます。その点、シュレッダーダストになる素材を救い出し、長く使えるモノによみがえらせるアップサイクルは環境負荷を減らし、自動車リサイクルの現在地を考えるきっかけにもなります。

シートベルトのトートバッグは家庭用ミシンで縫製。「どんどん真似してもらいたいから」と上村さん
ギヤでは廃車にする自動車を預けてくれたお客さんのシートベルトとエアバッグからバッグをつくり、お客さんに渡すサービスを提供しています。まだまだ十分に乗れる車を解体することには「疑問も感じてきた」と話す上村さん。「車は大事に長く乗ってほしい。そして、廃車にする時には愛車を感謝の気持ちで送り出してほしいんですよ」

モノが役目を終え、廃棄された後の回収、再利用、処理を請け負う産業を、静脈産業と呼ぶことがあります。ごみを減らすためには、分別も大事ですが、捨てた後のモノの行方を知ることには大きな意味があります。新しいモノを買うばかりでなく、既にあるモノ、愛着のあるモノを捨てずにどう使い続けるか——、私たち消費者が行動に移せることも実はたくさんあります。
上村さんの活動は評判を呼び、SDGsの文脈で、学校で話をしたり、公民館で子ども向けのワークショップを開く機会も増えているそうです。「大人より子どもたちの方がSDGsはよく知っていますよね。シートベルトのリボンを『あ、これシートベルトでできてる! かわいい!』と飛びついてきたり、意識の高い子どもたちがすごく増えてきています」

[右上の写真から時計回りに]
① コンデンサーで工作したミニロボット
②スペアタイヤをアレンジしてつくったプランター
③エアバッグ生地でつくる「てるてる坊主」は子ども向けのワークショップで企画
④自衛隊の災害派遣経験を活かしてつくったシートベルトの多目的防災バッグ。螺旋状に縫ったシートベルトは引っ張って解けば、長さ20mの緊急ロープに早変わり
「自動車から出るものをいかに面白く、楽しくできるかをいつも考えています。変なおじさんでしょ?」と笑いながら、廃棄物として処分されるモノをアップサイクルすることで付加価値を生み出してお客さんとのコミュニケーションを増やし、信頼関係を醸成したいと考える上村さん。アイデアを活かした、楽しく、実用的な作品群は、私たちにさまざまな刺激を与えてくれます。

「こういうモノがこうなるよって気づきが卵となって、いろいろな人の心の中で育っていけば、ゴミも減るし、いいアイデアが出るのでは? 自分もやってみよう、チャレンジしてみようと思う人が増えてくれば、車のリサイクルの世界も少しずつ変わっていくように思いますね」
株式会社ギヤ
藤岡市中島493-5
TEL:090-8856-7376
※不定休営業のため、来店の際は事前に連絡してください。
このストーリーのeco keyword 【アップサイクル】
持続可能な循環型経済へ移行するためには、製品をできるだけ長く使い続け、使用後もリユースやリサイクルをしてごみにしない工夫をすることが求められる。アップサイクルは使用済み製品を原料に戻さず、素材を活かして再利用する分、リサイクルより環境負荷が少ないとされる。自動車リサイクルでは、解体・破砕業者がシュレッダーダスト(ASR)にする前に樹脂やガラスなどの資源を回収し、ASRの減量に貢献すれば経済的インセンティブを付与する自動車リサイクル資源回収インセンティブ制度が2026年4月に開始予定だ。
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