小さな選択が、世界を変える力になる。
群馬で生まれるカーボンニュートラルやネイチャーポジティブの取り組みは、その証です。
自然と共生し、地域を守る人々の物語を、ぜひご覧ください。

私たちの荷物を運び、届けてくれる物流は、社会の変化に伴い、さまざまな技術革新を遂げてきました。現在、物流業界が直面する大きな課題の一つが、気候変動リスクへの対応です。業界全体で排出されるCO2は国内排出量の約2割を占めており、温室効果ガス排出削減と持続可能な物流システムの再構築が求められています。
2023年、群馬県と「カーボンニュートラル実現に向けた共創に関する連携協定」を結んだヤマト運輸株式会社では、全国の中でも優先的に電気自動車(EV)の導入を行っているほか、“群馬発”のグリーンインフラ型の物流モデルの開発検証を群馬県内で進めています。
県内で導入進むEV
ネット通販が発達した現在、家にいながら大抵のものは購入できるようになり、物流会社は誰にとっても身近な存在です。日々、集配で地域を周回している県内のヤマト運輸の車が、最近、走行音が静かなEVに切り替わっていることに気がつきましたか?

[EV車が待機する高崎正観寺営業所。倉庫の屋根の上には太陽光発電設備が設置されている]
取材は高崎市の国道17号線沿いにある高崎正観寺営業所を訪ねました。こちらの営業所にはEVが49台あるそうです(2026年1月現在)。ヤマト運輸では、ドライバーの働きやすさにも考慮しながら、さまざまなタイプのEV導入を進めてきました。

[2022年に導入された小型の国産小型商用BEV(電気自動車)トラック。低床化で、運転手が荷物を積み下ろす際、体にかかる負担が軽減するよう設計されている。「女性ドライバーも増えてきた中、必要な配慮」だそう]

[上のトラックの内部。運転席と荷台の間に仕切りがなく、車を降りずに行き来できる構造。右手にあるのは冷蔵・冷凍設備。CO2を排出するドライアイスの使用を控えるために設置された]

[積載容量の大きい2t車のEVも。一度にたくさん積めるメリットがある]
ドライバーは、配達先が狭い住宅地であれば、小回りが効く車を、多くの荷物を届ける必要があれば、積載容量の大きい車と、担当ルートの道路状況や届ける荷物に合わせてEVを使い分けているそうです。
高崎正観寺営業所でセールスドライバーとして働く菊地真吾さんは、「EVはガソリン車よりも初動が早く、発進時や加速時にパワーがあるのが特徴です。エンジン音が出ないので振動も少なく、体への負担が軽減されました。お客様からも、『環境への配慮が感じられるし、静かでいい』とお声をかけていただきます」と話します。

[「EVは静かな分、歩行者が気づかないこともあるので、交差点などではより一層気を付けるようにしています」と菊地さん]
運用最適化の実証実験も群馬で
ヤマトグループでは、環境ビジョン「つなぐ、未来を届ける、グリーン物流」を掲げ、気候変動対策に取り組んでいます。

[プライベートでは、バイクの整備とツーリングをこよなく愛する寺内さん]
「当社は2050年温室効果ガスの排出量実質ゼロを目標に、持続可能な物流網の構築と、2030年度までに2020年度比で自社の温室効果ガス排出量48%削減を掲げています。具体的な目標値はEV2万3,500台導入、再生可能エネルギー由来の電力使用率70%などで、自社施設に設置した太陽光発電設備による電力活用を推進しています」と、ヤマト運輸 グリーン・モビリティ事業戦略部の寺内弘之さんは説明します。
ヤマト運輸のエリア・拠点単位でみると、群馬県にはEVは450台。(2026年1月現在)、2030年度迄には集配車すべてをEV化する目標だそうです。

取材で訪れた高崎正観寺営業所を含め、県内14拠点に太陽光発電設備がある(2030年までに20拠点に設置を目標)。「当社の施設は大きな屋根や壁面など未利用スペースが豊富にあり、太陽光発電は導入効果が高い」と寺内さん
群馬県で導入が進んでいるのは日照時間が長く、太陽光発電に適した地域であること、そして、県内でEVや太陽光発電を使った運用オペレーションの最適化を検討する実証実験が行われていることも理由の一つです。
事業はグリーンデリバリーの実現に向けた案件として2022年、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション基金事業・スマートモビリティ社会の構築プロジェクトに採用されました。開発検証は2030年度までを予定しています。

ガソリンを入れる手間はなくなり、集配を終えたら、セールスドライバーは充電口のプラグをEVにつないでおく
開発検証では、EV導入の障壁となるさまざまな課題解決に取り組んでいます。課題とは、例えばEVを大量に導入すると、日中集配に出ていたEVが夜間に一斉に充電するので、夜から早朝にかけて電力ピークが跳ね上がり、電気基本料が非常に高額になること。また、日中の発電電力が消費電力を上回った場合、余剰発電分を活用しきれないこと、などがあります。
こうした課題解決のため、ヤマトグループはエネルギーマネジメントシステム(EMS)を独自開発。高崎正観寺営業所にはそのEMSが導入されています。自家発電量と営業所内の電力を見える化し、夜間は電力ピークの山がなだらかになるように放電制御。日中の余剰電力は蓄電池で回収して夜間の充電分に回せるようにし、再エネ自家消費率は25%から48%に上がりました。

[EMSで制御した前後のイメージ図 (ヤマト運輸提供)]
また、ヤマトグループでは、再エネの付加価値をさらに高めるため、カートリッジ式バッテリー(*1)を軸とした新しいビジネスモデルの構築にも取り組んでいます。
*1 車から着脱できる可搬式のバッテリー
カートリッジ式バッテリーはEVの稼働時間と充電時間が重複する問題や、再エネのインフラ整備にかかるコスト負担、送電線の容量不足などの課題を、車とバッテリーを分離することで解決できないかという画期的なアイデアに基づき、実用化が検討されています。
事業用のEVに使うカートリッジ式バッテリーは、まだ社会実装の段階ではないため、車両メーカーや関係省庁と連携しながら、規格標準化に向けた取り組みを積み重ねているところですが、さまざまな課題をクリアすれば、バッテリー単独での活用法も広がるため、物流業界の新しい事業分野を切り拓くツールとして有望視されています。
エネルギーエコシステムの将来ビジョン
今後、「運べる」バッテリーが実現した場合、期待されているのが、地域の独立電源としての活用法です。人口減少によるインフラ維持の負担軽減や災害による大規模停電への備えとして、地域の再エネをためたバッテリーを融通できれば、もしもの際の安心感が増します。
ヤマト運輸と群馬県は2023年6月、「カーボンニュートラル実現に向けた共創に関する連携協定」を締結。2050年温室効果ガス排出実質ゼロという共通目標のもと、脱炭素社会に向けた取り組みが、県内の生活者、事業者、自治体、すべての人にメリットをもたらすことを目指すというものですが、その中で、カートリッジ式バッテリーを必要な場所に「運び」、下のイラストのようにマイクログリッド(*2)として活用するアイデアが描かれています。
*2 大手電力会社の送電網を使わず、系統を独立させた小規模送電網。

[グリーン・モビリティの価値を多様なパートナーと共創することを示した将来像(ヤマト運輸提供)]
「当社の物流ノウハウを活用して、災害発生時の緊急物資の管理や配送も各自治体と連携しながら進めていこうという話も出てきています。その発展型として、例えば、停電が起きた被災地や、従来の電気系統の維持が厳しくなった過疎地にカートリッジ式バッテリーを届けることも想定しています」と寺内さん。
実現には今後法整備も必要になりますが、自立分散式の電源を確保することは、地域の持続可能性やレジリエンス(回復力)を高めることにもつながります。

さまざまな取り組みを通し、未来の物流の姿を模索するヤマトグループ。カーボンニュートラルと経済性と両立させることは、そう簡単なことではありませんが、こうした課題は自分たちだけのものではないと、特に中小の物流企業などに対し、円滑なEVの導入と運用を後押し、業界全体の脱炭素化に貢献しようと動き出しています。
2024年には新規事業「EVライフサイクルサービス」を立ち上げ、翌年には脱炭素化の計画策定からEVや太陽光発電設備の導入、その最適なレイアウトと円滑な運用といったエネルギーマネジメントをワンストップで支援する新会社「ヤマトエナジーマネジメント」<リンク→https://www.yamato-energy.co.jp>を設立しました。
「私たちが描く将来像とは、環境と経済活動が両立した地域に不可欠なグリーンインフラとなることです。2030年に向けたグリーン物流の目標達成に加え、データとテクノロジーを駆使したサプライチェーン全体の最適化、新たな物流サービスの開発に注力してまいります。環境負荷を低減しつつ、働く人にも、お客様にも、持続可能で品質の高いサービスを提供し、豊かな社会の実現に貢献してまいります」と寺内さんは話します。


[ヤマト運輸のコーポレートスローガンは「次の運び方をつくる」。地産地消の自立分散型のエネルギーシステムをつくることを目指す「群馬モデル」の知見が、未来の物流の先進事例として全国に広がっていく日も楽しみです。]
このストーリーのeco keyword 【カーボンニュートラル】
二酸化炭素の排出量と吸収量をプラスマイナスゼロにすること。2020年に当時の政府が2050年カーボンニュートラルを宣言し、グリーン成長戦略を策定。企業や自治体でもこれに準じた取り組みが進む中、群馬県は2050年までのカーボンニュートラルを目標に2022年、「ぐんま5つのゼロ」を宣言。今回のヤマト運輸との連携協定も、この5つの宣言のうち「温室効果ガス排出ゼロ」「災害時の停電ゼロ」実現に向け、自然豊かな本県の強みを活かした再生可能エネルギーのフル活用や、エネルギーの自立分散化を推進する取り組みに当たる。