ホームサーキュラーエコノミーの取組堆肥と飼料で地域連携 【須藤牧場 須藤晃さん/元気ファーム20 関根正敏さん】

堆肥と飼料で地域連携 【須藤牧場 須藤晃さん/元気ファーム20 関根正敏さん】

更新日:2026年04月17日

小さな選択が、世界を変える力になる。
群馬で生まれるサーキュラーエコノミーやネイチャーポジティブの取り組みは、その証です。
自然と共生し、地域を守る人々の物語を、ぜひご覧ください。

前橋市に畜産農家(酪農家)と耕種農家(穀物・野菜などの生産農家)が地域内で連携し、資源循環型農業を実現しようとする取り組みがあります。それが「耕畜連携」です。畜産農家は家畜排せつ物由来の堆肥を届け、耕種農家はその堆肥を入れた田畑で育てた飼料用の米や麦、トウモロコシなどを、畜産農家に供給します。畜産農家にとっては、家畜排せつ物の適正処理や国産飼料の安定的確保につながり、耕種農家にとっては化学肥料の低減や地力の向上、農地の有効活用などのメリットがあります。10年以上前から耕畜連携に取り組んできた須藤牧場と農事組合法人・元気ファーム20の取り組みを紹介します。

快適さは五つ星のホテル並み

須藤牧場は、赤城山を望む前橋市郊外で100頭ほどの乳牛を育て、牛乳や牛肉を生産する畜産農家。ホームページには、「ようこそ、ホテル須藤牧場へ」とあり、従業員がホテルのコンシェルジェのような衣装で整列した写真が載っています。

牧場なのにホテル? 宿泊施設と勘違いする人も?

「そうしたらしめたものです(笑)。関心を持ってもらえたということで」と代表の須藤晃さん。 気になる牧場名は、牛へのおもてなしがホテル級だという周囲の評判からつけたもの。牛が健康で快適に過ごせるように配慮された“サービス”の数々は、大手旅行予約サイトのように、宿泊者に見立てた牧場牛たちの好意的なレビューと五つ星で、ユーモアたっぷりに説明されています。

[牛たちがかゆいところをあてがうと回転する自動マッサージ器は“サービス”の一つ。「そう、そこそこ」と身を委ねているように見え、ほほ笑ましくなる]

須藤さんは、北海道の高校・大学で畜産業を学び、帰郷。地元の農協で酪農ヘルパーとして働きながら、さまざまな酪農農家で経験を積み、2001年に父親から事業継承しました。

群馬中小企業家同友会に所属し、異業種の仲間たちと交流しながら経営指針を考えていた頃、「須藤さんは牛への接し方がなんかホテルマンみたいですよね?」と言われたことが、“ホテル須藤牧場”誕生の由来。「うちの牧場も特徴を出す必要があると思っていたから、だったら、ホテルと名づけてしまおうかと」

“客室”と呼ぶ牛舎は出産前、妊娠中、出産間近・直後など、乳牛のステージによってわかれていますが、各部屋の中では自由に移動し、ゆったり過ごしています。「どこで寝てもよく、どこで食べてもいい」、ストレスフリーな環境です。

[一時期は体調管理でIoTセンサーも導入していたが、「牛が健康なら要らない。調子の悪い牛は見てすぐわかるし、もう使っていません」と須藤さん]

舎内は毎日の清掃に加え、定期的な煙霧消毒で清潔に保たれています。夏に涼をとる井戸水のシャワー室や、牛が嫌がるカラスの侵入を防ぐレーザー光など、アニマルウェルフェアの観点で取り入れた心配りがあちこちに見られます。

[臭いを抑えたこだわりの堆肥はおがくずを混ぜ、“ベッド”に再利用]

場内には心地良いジャズが流れ、のどか。食事を終え、寝そべって日向ぼっこをしていた牛が気持ち良さそうでした。鼻をつくアンモニア臭などは全く感じられません。

「牧場は本来静かなんですよ。人間の赤ちゃんと同じで、基本ストレスがなければ鳴かない」と須藤さん。

互いに利のある耕畜連携とは

須藤牧場と耕種農家の連携は、この臭いを抑えた堆肥に関根さんが関心を持ったことから始まりました。

花きや野菜を生産する複合農家だった関根正敏さんは、須藤さんとは、同じ年に新規就農した気心の知れた仲間。畑に入れる堆肥を購入したいと最初に声をかけたのは、関根さんでした。

[「須藤さんの堆肥は質が良く、土のバランスが崩れない。これまで近隣住民から臭いなどで苦情が来たことは一度もありません」と信頼を寄せる関根さん(右)]

脱サラ後、前橋市西善町の実家の畑を引き継ぎ、専業農家になった関根さんは、2008年に設立した市内初の農事組合法人「元気ファーム20」の中核メンバー。会社員時代に培った経理やマネジメントスキルを活かし、持続的に発展できる農業への転換に尽力してきました。

[前橋市西善町にある元気ファーム20の収穫施設]

耕畜連携もそうした方針転換の中、先進的に取り組み始めた事業でした。主食用米から飼料作物への転作は、当時、減反政策の一環として国が補助金を出して進めていた政策でしたが、元気ファーム20では収穫時期を主食用米とはずらせることや、地域で連携可能な畜産農家が想定できたことから、経営を支える重要品目になると見込んで力を入れ始めたのです。

元気ファーム20は、飼料作物の栽培を委託できる米農家と、堆肥提供に賛同する畜産農家を集め、飼料生産を請け負うコントラクター組織を2011年に編成。大型機械を共同購入し、収穫、裁断、飼料の発酵・調整、ロールの成型・運搬までを効率的に行う生産体制を確立しました。

最初の数年は品種の選択や飼料作物を刈り取るタイミングに難航しました。

「当時は取り組む農家も少なく、主食用米を飼料向けにしようとしていたこともあり、うまくいきませんでした。先進地の九州に何度も足を運んで勉強を重ねましたし、県や市の研究機関で分析器にかけてもらったり、企業に相談を持ちかけて一緒にやってもらったこともありました。機械の選択や飼料の調整に試行錯誤した期間が3、4年ぐらい続きましたが、飼料用の専用品種が入手できるようになると問題は解決し、今では製造技術は安定しています」

[飼料用麦を収穫し、数cmに裁断するまでを一気に行う大型農機具。先進地の九州で活用事例を視察し、共同導入。重量は7、8t。飼料用イネや飼料用トウモロコシはコンバインで収穫する]

[こちらは細かく裁断した飼料に乳酸菌を投入し、白いビニールで円柱型に圧縮成型するまでを行う大型農機]

実より葉や茎などに蓄えられた糖分を重視し、乳酸発酵させる発酵粗飼料をホールクロップサイレージ(WCS)と呼びますが、WCSの一連の製造工程を大型機械の導入で効率化。将来への大きな投資をしたのです。元気ファーム20の耕畜連携にかける意気込みが伺えます。

[元気ファーム20から須藤牧場に納品された貯蔵飼料。牛は1日にロール7個分くらい消費する]

耕種農家にとって耕畜連携は収入面のメリットだけではなく、空いた農地を農地として維持し続けるという重要な意味合いがあります。

[収穫期を迎えた飼料用イネ。「熟すと茎はサトウキビぐらい甘くなります」と関根さん]

特に飼料用イネは、主食用の米と同じように田んぼに水を張って栽培します。

気候変動の影響で生産が不安定になる中、食料安全保障への関心は、人間が食べる米の確保に向きがちですが、水田を維持するためには治水や気温の上昇抑制など、環境面から見ても「非常に大切な役割がある」と関根さんは指摘します。

[「補助金が打ち切られたとしても、この取り組みは続けていかなければならないと思っています」と関根さん]

現在、3つの農事組合法人が事業に参加。元気ファーム20でも飼料作物の生産は売り上げの2〜3割を占める重要品目になり、須藤牧場では牛たちの主食である粗飼料の8割を前橋産でまかなえるほどになりました。 須藤さんと関根さんは、双方に利のある資源循環の仕組みに将来性を感じ、「群馬トランスフォームプロジェクト」と名付け、循環の仕組みを図解した看板やロゴマークなども製作しました。

[群馬トランスフォームプロジェクトの仕組みを図解したイラスト(上)とロゴマーク(下)]

粗飼料はほぼ自給できるようになったことから、元気ファーム20では須藤牧場から委託を受け、トウモロコシの子実やもみ米を集めて発酵させた濃厚飼料もつくり始めました。粗飼料が繊維質豊富な牛の主食だとすれば、濃厚飼料はデンプンやタンパク質が豊富な牛のエネルギー源となる「おかず」。こちらの自給率はまだ10%ほどですが、少しずつ前橋産で代替していく試みも始まっています。

[デントコーンと呼ばれるトウモロコシを発酵させた飼料。畑は牧場近くにあり、刈り取りや飼料の調整・成型までは元気ファーム20が行う。「酪農は人手不足が深刻。牛を飼うだけでも大変だから、飼料生産を手伝ってもらえると、だいぶ楽ですね」と須藤さん]

国際情勢や円安の影響で輸入飼料や化学肥料など農業資材は高騰を続け、農家の経営を直撃しています。畜産農家が飼料を地域で調達できれば、輸入への依存を減らせることから、コスト削減や環境負荷軽減につながり、品質面でも信頼のおける農家が生産してくれる安心感があります。

農水省は耕畜連携を2030年までに倍増させようと、マッチングサイトを設置しました。須藤さんは円滑な連携のためには、適切なパートナーを見つけることが欠かせないとアドバイスします。

「『水田活用の交付金で飼料用イネつくったから、買ってくれよ』みたいな、半ば強引な売り込みも耕畜連携になってしまっています。区別してほしいのは、お互い利のある関係が耕畜連携だということ。我々は何十年と先までこの生業を引き継いでいかなければならないし、目先の利益でなく、もっと長い目で見てほしい」

牛にも、農業者にも、一方通行のストレスがかからないよう、お互い心配りをしながら助け合い、補完し合う関係性が持続可能な耕畜連携です。

関根さんも、飼料穀物は取り扱いの難しさがあることを知っておいてほしいと言います。

「牛はかなりデリケートな動物。飼料だから、例えば少しくらい泥がついていたり、ごみが入っても平気だろうとか、まずはそういう意識を改めないと。今回のプロジェクトでも、管理や調整の仕方も含めて、飼料を人間が食べるものと同等、あるいは、それ以上の取り扱いが必要だという共通意識を持ってもらうまでが大変でした」

関根さんは須藤さんと密に連絡を取り合い、牧場の期待に応えられる飼料作物をつくろうと努力してきました。10年間で構築された信頼関係は、今では揺るがないものとなっています。

3K産業から三方良しへ

関根さんは、「耕畜連携は共存共栄につながる」と話します。耕種農家にとっては堆肥を入手でき、収穫後の飼料用イネのわらは地域の肥育農家に提供し、続く麦作にスムーズに入れるなど、牧場との連携で資源が循環している実感を得られていると言います。

[須藤牧場は今後、第三者継承を予定。後を継ぐ予定の若者二人は現在、時間をかけて牧場の仕事を学び、地域コミュニティとの信頼関係を築いているところだ]

一方、須藤さんは耕畜連携を通してもっと地域の役に立ちたい、そんな思いがより強くなったと話します。

「今まで牧場は臭い、きつい、休日がない、3K産業でしたが、例えば、仕事を縦割りにして、その人が得意なことを発揮できるような、心地よい職場環境に変えれば、イメージも変わります。地元の農家や消費者、子どもたちにも牧場はいいところだと思ってもらいたい。企業が目指す三方良し的な立場を農家も目指していかないといけないと思っています」

人材不足や気候変動、物価高騰への対応などは農業分野に限らず、昨今の企業経営の構造的な共通課題です。耕畜連携のように自分たちの領域に閉じこもらずに課題を共有し、門戸を開いていくことが、新しい道を切り拓きます。

マッチングをうまくすれば、もっと多様な人が牧場に関われる。須藤さんは資源循環に加え、牧場には地域コミュニティを潤滑にする可能性もあると感じるようになりました。

須藤牧場は2023年、耕畜連携やアニマルウェルフェアに配慮した取り組みが高い評価を受け、日本農業賞個人経営の部で大賞を受賞。視察や取材の機会も増える一方、須藤さんは地元の子どもたちや酪農を学ぶ学生、取引のある乳業メーカー、レストランスタッフなど幅広い人たちに牧場の現場を体験してもらうことにも力を入れています。

「生乳生産だけでなく、命の場とか、いろんな人がつながることができる社会的な意義が牧場にはあって、唯一無二の職業でもあると感じます。牛ってやっぱり特別な動物なんですよね。これからもそこを伝えていきたいと思っています」

このストーリーのeco keyword 【耕畜連携】

畜産農家から出る排せつ物由来の堆肥の活用先と輸入依存度の高い飼料の国産化という長年の課題解決を図るため、従前から推進されてきた。耕畜連携に取り組む利点は、耕種農家にとっては肥料コスト低減や地力増進、連作障害回避、耕作放棄地の活用など。一方、畜産農家にとっては、顔の見える国産飼料の安定確保、飼料生産の外部化、飼料自給率の向上、堆肥供給先の確保など多岐にわたる。また、適切に堆肥化されることで、家畜排せつ物処理に由来する温室効果ガスの排出抑制、さらに化学肥料の使用量低減に資するといった環境面の利点もある。須藤牧場と元気ファーム20の取り組みは県内のモデル事例の一つ。須藤牧場の生乳を使ったチーズ生産は、耕畜連携による6次産業化の取り組みとして群馬県中部農業事務所が支援している。

このページに関するお問い合わせ先

知事戦略部 グリーンイノベーション推進課 戦略推進係
〒371-8570 前橋市大手町1-1-1
Tel:027-226-3271
HP:グリーンイノベーション推進課 – 群馬県ホームページ